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2022/01/10
未来につながる場所

演出家という仕事について良かったなと思うとき。
装置が組まれたけれどまだ俳優がいない舞台を眺めるとき。
それも客席ど真ん中の一番良い席から。
ここに座りたいがために演出家になったんじゃないかと錯覚するほど。
あ、つまり、劇場という場所がすごく好きだということ。

劇場が好き。
客席のわりと後方に演出席を作ってもらう。
普通なら照明家が座るような席。
つまり舞台空間と客席が同時に見える場所がベスト。
なので劇場空間そのものが好きなんだと気づいたこのごろ。

稽古場でも一番いいところに座ってよいことになっている。
これも幸せ。
ここで俳優の演技が変化していくのを見るのがとても好き。
昨日と今日のほんの1ミリの変化を感じるのが楽しい。
関係者それぞれがひとつの作品で繋がっていく時間を共有することの幸せ。
うまくできなかった俳優が何かを掴む瞬間に立ち会える光栄。
伝えられなかったことをうまく説明できたときの満足感も格別。

そういえば劇団の演出助手だったとき制作の人から言われたことがある。
「お前よくずっと稽古場に座ってられるな」と。
何が? と思った。だって面白いじゃんこの場所。
その人はこうも言った。
「あんな緊張感にずっと晒されるのは耐えられない」
緊張感? そうなの?

脚本家になった仲間たちは一日中パソコン(当時はワープロ)の前にいた。
制作の人はデスクワーク、ロビーでの接客と色の違う仕事をしていた。
俳優は演技のことばかり考え、時間があるとブツブツとセリフを言っている。
そんなこと自分はできない。
でも稽古場に座っているのは苦痛じゃない。

突然だが断言してみる。
才能の正体は「場への適性」だと。
上手下手より重要なこと。
ずっといられる場所かどうかということ。

こんなことを書いたワケ。
舞台芸術に関わりたい人の何かヒントにならないかと思うから。
この業界に興味を持つ人の多くは「出演者」が何らかのキッカケになっているはず。
だけどそれは舞台芸術におけるひとつのパーツに過ぎない。
実際には様々な人がこの世界を作り上げている。
わたしと舞台芸術」というページを作ってもらったのはそういう理由だ。
肩書きを見るだけでも面白いと思うが、どうだろう。

僕は演出家になりたいとも脚本を書きたいとも思ったことはない。
だけど今その両方を仕事としている。
思えばそれは稽古場に座っていられたということがきっかけだ。
パソコンが発達してモニターの前にいるのも楽しめるようになったし。
もちろん苦労はたくさんあったが、それはまた別の話。

劇場の真ん中でよく昼寝をする。
明日から始まる舞台稽古のことは忘れて、ただ疲労回復のために。
客席に漂う劇場の匂いが好きだ。
人がたくさん集まる場所特有の匂い。
歴史の長い劇場ほどそれは独特だ。
ホコリとヒトとケミカルな何かが混じった匂い。
こういう場所は無くならないでほしい。

板垣恭一

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